社団法人全国外国語教育振興協会主催 特別講演会を開催しました!
第1部
『外国語教育と日本語』
講師:杏林大学教授 金田一秀穂 先生
第2部
『日本酒de異文化交流 〜飲めばわかる、
話せばわかる〜』
講師:宮坂醸造株式会社 代表取締役社長 宮坂直孝 氏
実施日 平成20年6月21日(土) 午後2時30分〜5時
会 場 津田ホール
〈第1部〉 金田一先生 講演「外国語教育と日本語」要旨
金田一秀穂(きんだいち ひでほ)先生
上智大学心理学科を卒業後、1983年に東京外国語大学大学院日本語学専攻を修了。
その後中国の大連外語学院、コロンビア大学などで日本語を教える。1994年、ハーバード大学客員教授を経て、現在は杏林大学外国語学部教授を務める。日本語なるほど塾(NHK)、世界一受けたい授業(日本テレビ)などへ講師として出演。主な著書:ふしぎ日本語ゼミナール(生活人新書、日本放送出版協会)、新しい日本語の予習法(角川書店)など。
ph04.jpg 外国語と日本語の大きな違いは、発音でも文法でも語彙でもなく、世の中の見え方が違うということ。このことに気づくと「ことば」がとてもおもしろいものに思えてくる。
例えば、同じ日本でも、沖縄では「落し物」を「拾い物」という。世界に目を向けると「拾い物」という表現を使うのは、ロシア、ドイツ、ベトナムなど。マレーシア、インドネシア、韓国などでは日本と同様に「落し物」という。落とした人から見ているのか、拾った人から見ているのか、によって表現が違ってくる良い例である。

 例えば、エレベーターの中。日本人は基本的には知らない人とはしゃべらない。逆に知っている人とは、たとえその人と話たくなくても、話さなければ悪いと気を遣う傾向にある。この人見知り文化が日本人の英語下手を助長しているように思う。 一方、英語圏では、エレベーター内での沈黙はほとんどあり得ない。スモールトークやチャットを重んじる英語圏の文化を象徴している。

 「ことば」とは、人と人を繋げるきっかけである。例えば毎日かわす挨拶。挨拶に意味はない。しかし、意味のない無駄話が、言語の本質にもっとも近いと考えている。何故なら「ことば」がないと人は孤立していくから。

講演会場風景 「ことば」とは、集積した知識を伝達する手段である。例えば桃に関する情報、桃という果物の名前、種を蒔く時期、花が咲く季節、収穫する時期などの知識を集積し、ことばで伝達することによって、桃の存在が後世に語り継がれていく。

 外国語教育では、気のきいた会話の仕方を教えることに重点をおいているが、極端なことをいえば、本来は無駄話をする方法を教えるべき。コミュニケーション能力の本質は、対人社会能力と言語能力のバランスがとれていること。つまり、その場面で相手の立場や求めることを瞬時にわかる能力が一番大切だと考える。

★ 感 想 ★
 最近、テレビや雑誌で拝見する機会の多い金田一先生、お客様の笑いのツボをしっかりと押さえながら、外国語教育と日本語の係わりについて、ご講演くださいました。対人社会能力と言語能力のバランスがとれている良い例が「大阪のおばちゃん」で、ノリがよい上に相手が何を望んでいるか瞬時に見分ける能力をもった方が多いそうです。大阪へお出かけの際、観察してみてはいかがでしょうか。藤
〈第2部〉 宮坂直孝氏 講演「日本酒 de 異文化交流」要旨
宮坂直孝(みやさか なおたか)氏
慶應義塾大学卒業、MBA取得。創業1662年、長野県諏訪市にある造り酒屋の老舗「宮坂醸造株式会社」の代表取締役社長。諏訪大社のご宝物「真澄の鏡」を酒名に冠した「真澄」は美酒として海外でも人気。2000年より清酒の海外輸出に本腰を入れ始め、日本食ブームとあいまって、フランス、ニューヨークなど、世界20カ国への輸出売り上げが順調に伸びている。
「日本酒を世界酒へ」をキーワードに、世界に向けて「日本酒文化」を発信中。
宮坂直孝氏01 江戸時代、諏訪高島城の御用酒屋だった宮坂醸造は、大正中期には、駄酒(だざけ)屋と言われるまでに落ち込み、倒産の危機に直面した。宮坂直孝社長の祖父が広島の酒蔵見学に出かけ、徹底的な品質改善を行った結果、昭和10年代には、監督官庁である国税庁主催の品評会で「真澄」が日本一を獲得し、同社が立ち直る大きなきっかけとなった。その後、宮坂氏の父が工場の機械化、コンピューター導入など作業工程の合理化と、新聞テレビなどマス媒体を使った積極的な広告展開で新境地を開き、経営を軌道に乗せた。

 現在は、国内に2蔵、香港に1支店があり、1年で、110万本(11000石)を生産販売している。あまり大きくすると良いお酒ができないので、今の規模を維持していきたい。シェアは長野県50% 県外45% 海外5%である。

 海外のワイナリーでは、蔵を見学し、併設されたレストランでワインを飲み、食事をする、という「ワイン カントリー ツーリズム」が常識になっており、ワインと消費者の関係をフレンドリーにし、地域への貢献度も大きい。一方日本の酒蔵は、あまりに閉鎖的で、風格のある屋敷や庭園があるのに、公開しない。問い合わせがあるのに、消費者には冷淡。そこで、古い事務所を改築して、日本酒の種類や製造工程、飲み方などを紹介するファクトリーショップ「セラ真澄」を作った。ここでは日本酒の有料テイスティング、酒器や無添加の肴や味噌を販売している。口コミでお客様は年々増えている。

 日本の先祖が長い間かけて培ってきた酒器や酒の肴、酒席の遊びを失ってしまったら、日本の食文化はつまらないものになってしまうので、酒周辺文化の保持と普及に努めている。酒そのものが主役ではなく、酒を取り巻く空間と時間が大事。海外の人々はそういうことをとても大切にしているし、興味をもっているので、見習いたい。何よりも本物を作る職人を大事にしたい。日本がつまらない大量生産の国にならないためにもそう考えている。

 ビール、ウイスキー、焼酎などの勢いに押され、順調だった日本酒の売り上げに翳りが見え始めた1995年前後。富山の造り酒屋の友人と共にフランス・イタリアのワイナリー見学に行く。フランス・イタリアでは、オーストラリア、南アフリカ、チリ産ワインに押され、ワインの消費量が落ち始めた頃だった。1999年、フランスでワインの展示会に初挑戦し、日本酒ブースを出展したところ大盛況だった。その後、英文と仏文パンフレットやDVDを作成し、何度か出展を繰り返すうちに商談が増え始めた。スイス航空やリーデル(オーストリアのワイングラスメーカー)、JAL、ANA、ジェトロなどの他、ロシアからも引き合いがくるようになり、日本酒の世界酒化に一歩一歩近づいている手ごたえを感じる。
 海外との取引が増えたことにより、諏訪本社にアメリカ人とフランス人の社員、香港に現地社員を2名配属している。海外のワイナリーのオーナーから、「日本の大企業のエグゼクティブはワインについては詳しいが、日本酒について尋ねると何も知らないので非常に驚く」と言われたことがある。海外ではそういう人は幹部になれないという。言葉とともに日本の文化をきちんと語れるような語学力を身につけてほしいと願う。

★ 感 想 ★
 最近の日本の食卓事情の変化を嘆く宮坂社長のご意見に同感しました。大人も子どもも忙しい個食・孤食の現代にあって、家族揃っての食事や晩酌になかなか時間を費やせないのでしょう。食卓は栄養補給の場ではない。チャットの場所である。お酒もコミュニケーションのツール、スモールトークにお酒があると心が開く。ほんとうにその通り、社長のこのお言葉を強い味方にして、楽しく日本酒をいただいております。藤
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